【企画・司会】「~ヨーロッパ × 中国 × 北海道 北海道よ! 目指せ、エイガ牧場〜」

2017年11月25日(土)「クチコミ劇場part4」のプログラム内で「~ヨーロッパ × 中国 × 北海道 北海道よ! 目指せ、エイガ牧場〜」を実施しました。
ヨーロッパ行政の映像事業に詳しい深田晃司監督(『渕に立つ』)、中国映像ビジネスに詳しく、映画秘宝の洋泉社から著書も出す中根研一教授(北海学園大学法学部)、札幌フィルムコミッションの佐藤有史さんをお呼びして、ヨーロッパと中国と札幌の映像産業の取り組みを比較します。

主  催|札幌映画サークル、クチコミ劇場実行チーム
助  成|芸術文化振興基金
協  賛|シネマ一馬力、ROBOT
特別協力|映像産業振興機構(VIPO)、札幌フィルムコミッション、東映アニメーション(株)、中根研一
上映協力|Ashtray Arts、INOUE VISUAL DESIGN、ENBUゼミナール、大田原愚豚舎、セカンドサイト
     SPOTTED PRODUCTIONS、TOKO FILM、Teco 11c、深田晃司映画まつり、BULLDOGFILM
     MOOSIC LAB、よしもとクリエイティブ・エージェンシー、WATCH THAT SOUND
会場協力|札幌プラザ2・5
企  画|札幌映画サークル企画班(SCC内での矢武企画案件の呼称)
後  援|北海道、北海道教育委員会、札幌市、札幌市教育委員会、札幌フィルムコミッション

目次

「~ヨーロッパ × 中国 × 北海道 北海道よ! 目指せ、エイガ牧場〜」レポート

クチコミ劇場の幕間に行われたスクリーン前トークは、ヨーロッパ、中国、札幌の映像産業に見識の深い3名のゲストを招いて行われた豪華な対談だった。各国と日本の映画界の現状を比較しながら、映画産業の未来を考える! と銘打たれていたものの、繰り広げられたのは生々しい「エイガにまつわるおカネのはなし」(+ギョーカイのはなし)。映画を将来の職業とむすびつけて考えはじめようとしている若い人にとっては暗い気持ちになるような、どうにも歯がゆくなってしまうような現状も多く明かされたのだったけれど、一線で映画を作っている人から聞くことができたことは、貴重でおもしろい1時間だった。

札幌は、映画の作り手を支援している街だ。そして、「撮影地」としての街の魅力を発信しているのが、札幌フィルムコミッション(札幌FC)。FCは全国に200近く存在する、映画環境を通じた地域活性化を目的とした団体で、自治体の外郭団体である場合が多い。札幌FCが特に秀でているのは、映画監督やプロデューサーへ能動的に働きかけていく姿勢と、全国で2番目に映画制作の為の「助成金」が多いこと。とにかく公金に規制を設けたがる日本において、「資金は出すけれど内容にコミットしない」という札幌のスタンスはめずらしいもの。深田監督は「映画監督の立場からすると、作りたいものを作るための大きな力になるので、非常にありがたい」と評価する。

つづいて映画の舞台として脚光を浴びる札幌と北海道の例として、もっとも身近なアジア圏からの観光客に話題は移る。人気の火付け役となったのが、小樽を舞台にした『Love letter』(95)。物語の舞台となった土地を訪れる「聖地巡礼」が人を呼び込んでいる近年の状況を、中国映画事情に詳しい中根教授が解説した。北海道の持つダイナミックな景観は、映画を撮影するにあたっても強みになる。一連のブームでヒットの下地ができている中国には今後もロケを誘致していきたいところだが、めざましい映画産業の渦中にあっては、近年でこそ地域性を出した作品が生まれてきているとはいえ、都市群のスタジオで撮影を済ませる大作主義。盛り上がる映画産業を後押ししているのは、映画を新たな娯楽として歓迎している10代や20代の若者なのだという。

ここで視点は映画にまつわる数字に切り替わっていく。はじめに取り上げられたのは各国の興行収入について。2012年以降、中国はアメリカに次いで世界第2位に市場を拡大させており、日本は第3位となっている。3位というと聞こえはいいが、「(日本は)チケット代の高い国なので、自分は張子の虎だと思ってます」と深田監督は切り込む。では、ひとりあたりの国民が年にどれだけ映画を観ているか、映画館へ足を運んだ回数で比較してみると、これはフランスと韓国が4回を超える値で拮抗している。日本の1.2回と比較すると、生活と映画の近さがよくわかる数字だ。にもかかわらず、封切られている映画の本数は、フランス250本に対し、日本では650本以上。これらが示すのは、作られている映画の本数や規模と観客とが釣り合っていない、なんともいびつな日本映画界の姿なのだった。

この状況の原因は、かなり大まかにまとめてしまうと、映画業界に関わらず、高齢化によって縮小している日本国内の市場がアメリカ型の経済システムで回されていることにある。アメリカは英語圏という広大な市場に(広大な市場をターゲットにするからこそ)誰もが楽しめる大作映画を流通させられる強みがあるうえ、税額控除が受けられるという利点のおかげで、芸術文化に対する寄付が根付いている。しかし、日本のように、日本映画・文化という時点でマイノリティである国はむしろ、作家性の高い作品を武器に、フランスやヨーロッパ諸国に倣って、官民でともに映画業界をバックアップする制度を整える方向に活路があるはずだ。ただ、世界第3位の規模を持つ業界の経済システムを変えることは一朝一夕ではむずかしい。だからこそいまは、作家のクリエイティビティを尊重してくれる地域・・・札幌のような「地方」との共存が、未来の日本映画界・芸術文化を切り開いてゆくカギになる。

ヨーロッパと中国、札幌をトークのあいだで行き来しながら、深田監督は繰り返し、自信の思う映画の力に触れてもいた。特に、フランスと並び映画業界を厚く支援している韓国の助成金制度の基準に「複雑なテーマを扱い大衆が理解しがたい」「他国の文化や社会の文化の理解に役立つ」という項目があることに感動したのだという。物語を楽しむことのほかに映画芸術が持つ、文化の相互理解のツールとしての重要性。世界の一線で活躍する作家から直接話されると説得力があったし、その活躍をたのもしくも思った。「私の作品はまさに『大衆が理解しがたい映画』に入ってしまうかもしれないと思うんですけど。結構わるくないと思うので、ぜひ観てほしいです」締めくくりの言葉が恰好よかった。

(文・阿部ひかり)

「~ヨーロッパ × 中国 × 北海道 北海道よ! 目指せ、エイガ牧場〜」登壇者からのメッセージ

声:深田晃司監督(映画監督)

わたしたちはそろそろ平等について考えないといけない。
札幌映画サークルの「クチコミ劇場」に拙策をお招き頂き勇んで羽田から飛び立ちました。雪混じりの凍えるような札幌で大変暖かく迎えて頂き、サークル関係者の皆様には本当に感謝するしかありません。
すでに半世紀以上続くこの映画鑑賞団体が地域に果たしてきた役割はつくづく大きいはずです。特に近年は若手やインディペンデント映画の上映や作り手の招聘に力を注がれていて、今回上映された私の短編映画などはもし札幌映画サークルがなければこの地で上映されることはなかったでしょう。
こういった市民に支えられる鑑賞団体は、各地域における映画の多様性を守る砦なのだと思います。しかし一方で、日本映画界はいつまでもその善意と映画愛にだらしなく甘え続けてよいのだろうか、と考えてしまいます。もっと、公的な資金で地域の活動を支える仕組みを作れないのだろうか、と。
フランスの地方や地域にはなぜ当たり前のように公共の映画館があるのか、今こそ私たち映画業界の人間は問い直す必要があります。経済も大事ですが、しかし興行的な成果ばかりに目を向けているうちに、その足元で地方の文化の焼け野原はますます拡大してゆきます。なぜなら、文化の価値は経済的価値と必ずしも一致はしないからです。焦土戦に竹槍と精神力とポケットマネーで戦えと鼓舞し続けるのはもうやめにしよう。
狸小路商店街の美味しいカツカレーを食べながら、そんなことを考えてました。

声:中根研一(北海学園大学法学部)

世界を、そして日本を知るための映画体験〜札幌映画サークルさんへの期待〜
クチコミ劇場での深田晃司監督・佐藤有史さんとのトークは実に刺激的で、有意義な時間でした。
当日の話題にも上がりましたが、道内でロケをした中国映画『恋愛中的城市(原題)』、『奔愛(原題)』、タイ映画『One day(英題)』等のヒット作が、日本未公開のままなのは非常に残念! 文化や価値観の異なる他者の視点から描かれた「日本」や「北海道」の映画こそ、今の我々に多くの示唆を与えてくれるはずです。
深田監督の『ほとりの朔子』で、「インドネシアのことはインドネシア人に任せておけばいい」と言う朔子に対し、インドネシア研究者の叔母が「自分のことを自分が一番よく知っているとは限らない」と返すシーンがあるのですが、本当にその通りだと思います。
今回、貴重な機会を与えてくださった札幌映画サークルの皆様には、心より感謝申し上げます。今後とも、多様な映画を我々に届けてくださることを期待しつつ、ますますのご発展をお祈りいたします。

声:佐藤有史(札幌フィルムコミッション)

救世主
今思うと、映画はその時の僕に足りないものを、常に補ってくれました。悲しい時は、絶え間ない笑いを。一人寂しいときは、儚くも献身的な愛を。心が塞がった時は、前に進む勇気を。だから僕は今でも映画にワクワクするのだろうと。
幸いにも、僕は幼少の頃から映画を見ることが出来、僕に生き方を見せてくれました。怒りにまかせて、周りの人間にぶちまけることがどれだけ恥ずかしいことかを客観的に知ることが出来、時には感情の赴くままに没頭することが、どれだけ美しいのかを俯瞰的に知ることが出来ました。だから僕は今でも映画を見るのだろうと。
図らずも、今僕は札幌フィルムコミッションとして映画作りの一端ではありますが、関わることが出来る所にいます。もしその映画が誰かの心を少しでも動かすものであったならば、それ以上に幸せなことはありません。だから僕は今でも映画に救われているのだと思います。
だから僕が、「多くの人に映画を見て欲しい」と願って止まない札幌映画サークルを、救世主と思うのは自然なことなのです。

※すべて「クチコミ劇場part4」の報告書用に作成、寄稿頂いた文章です。

転載禁止

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次